『 ナイフ 』
2010/11/17 20:57:17
新潮社 (2000/06) 坪田譲治文学賞受賞作。
「悪いんだけど、死んでくれない?」
ある日突然、クラスメイト全員が敵になる。
僕たちの世界は、かくも脆いものなのか!
ミキはワニがいるはずの池を、ぼんやりと眺めた。
ダイスケは辛さのあまり、教室で吐いた。
子供を守れない不甲斐なさに、父はナイフをぎゅっと握りしめた。
失われた小さな幸福はきっと取り戻せる。その闘いは、決して甘くはないけれど。
私はナイフを持っている。
これで息子を守ってやる…。
小さな幸福に包まれた家族の喉元に突きつけられる「いじめ」という名の鋭利なナイフ。
日常の中のゆがみと救いをビタースイートに描き出す出色の短編集。
* * * * * * * * * * * * * * * * * * 以上 amazon 商品説明 から * * * * *
「ワニとハブとひょうたん池で」
町の池にワニが住み着いた。
特別な理由もなくイジメの対象にされているミキは池に集まる人たちを見て思う。
捕まえるだけじゃ物足りないんだ。
ワニが暴れて、ここにいる誰かに噛みついて、悲鳴があがって、血が飛んで、
最後はワニも殺されちゃわないと、「今日はつまんなかったな」なんて言いながら
引き挙げるんだ。
ゲームだもん。 こんなの、全部。
恨みや憎しみがなくたって、こんなふうに追い詰めていって、笑いながら殺すこともできるんだ。
「ナイフ」
マイホームを購入し、妻と息子と平凡ながら幸せな暮らしをしていくはずだった。
息子が中学生になり、何かが少しずつ変わっていく。
背が低いからイジメられるのか? イジメられたから自分より弱い者を更にイジメるのか。
息子と学友、駅前ロータリーにタムロする若者。
父は露天商から サバイバルナイフを購入していた。
「キャッチボール日和」
野球好きの父に荒木大輔と同じ 大輔 という名前をつけられた大輔はイジメによる登校拒否児。
そのイジメの内容は、心身共にわたる悲惨な描写がされている。
大輔が転校していった後の教室と生徒たち。
傍観者的立場をとっていた大輔の幼馴染:好美は思う。
「完全なコドモじゃないから、やってはいけないことや悪いことは、たくさんわかっている。
でも、やっぱりコドモだから、わかっていることをうまくやれない。」
「エビスくん」
転校生の戎(えびす)君。
兄ひろしから転校生の話を聞き、ご先祖様はエビス様かもしれない。会いたい。
と言いだす妹は、重篤な病でいつどうなるかわからない。
日々、えびす君からイジメをうけているひろしは、エビス君に見舞いに来てくれとも言えず。
「ビタースィート・ホーム」
教師から見た「 正しさ 」の指導と親から見た「 正しさ 」。
子育てにおいて、正しいことが全てなのか。
そして親は果たして、正しく育てることなど出来るのか。
親も教師も 正しい子どもの教育 なんて現実に可能なんだろうか。
イジメる側とイジメられる側。
そこには、それぞれの理由があったり無かったり。
現実にも明確な理由など存在しないのかもしれない。
ただ、社会では 犯罪レベル の行為が無法地帯のように行なわれている。
親の影響なのか、平和すぎる世の中のせいなのか。
老人と触れあうことのない核家族化が、死に対する認識を弱めたのか。
一人として同じ人間は居ない。
その人間たちが関わるイジメには、同じケースもないのだと思う。
良いこと、悪いことは、おそらく百も承知で、それでもやってしまう。
「 それは、悪いことだ 」と諭しても何の意味もない。
イジメに気づいた人が出来ることは何なのだろうか。
イジメを終わらせれば、それぞれの子のその後は平穏になるのだろうか。
そんな取りとめのない、答えが見つからないようなことを考えていました。