『 卒業 』
2010/04/10 20:09:00
「わたしの父親ってどんなひとだったんですか」
ある日突然、十四年前に自ら命を絶った親友の娘が僕を訪ねてきた。
中学生の彼女もまた、生と死を巡る深刻な悩みを抱えていた。
僕は彼女を死から引き離そうと、亡き親友との青春時代の思い出を
語り始めたのだが―。
悲しみを乗り越え、新たな旅立ちを迎えるために、それぞれの「卒業」を経験する家族を描いた四編。
重松 清
1963(昭和38)年岡山県生れ。出版社勤務を経て執筆活動に入る。
’91(平成3)年『ビフォア・ラン』でデビュー。
’99年『ナイフ』で坪田譲治文学賞を、『エイジ』で山本周五郎賞を受賞。
2001年『ビタミンF』で直木賞を受賞する
(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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数々の賞を取り、今また「 十字架 」も受賞されてますね。
高校の教教科書や問題集にも使われているので、ご存じの方は多いかと思います。
小説新潮に単発読み切り掲載された4作品が収録されています。
この四編は、重松さんの意識の中ではゆるやかで淡いつながりがあるそうです。
その繋がりとなるのが、「 ゆるす ゆるされる 」
どの作品もそのテーマが 前面に出しゃばってはおらず、感じない読者もいるかもしれない。
でも、人と人の関係は、最終的に “そこ”ですよねぇ。 そして、自分と自分自身も。
「 まゆみのマーチ 」
楽しい時は、いつでも歌を歌う少女。でも学校で授業中に歌っては・・・・。
家族と教師の立場の違い。母親の徹底した子の受け入れ方は、学ぶところがあると感じました。
「 あおげば尊し 」
2代に渡る教師親子。父は末期癌で、自宅で最後を迎える。
息子は生徒に「 死 」を感じさせようと父の姿を見せるが・・・・・。
死に臨む人を見た子供たちの言葉と 死にゆく人の尊厳についての意見。
父兄の「子供に人が死ぬところを見せるなんて非常識じゃないか。
もっと、命の素晴らしさや 生きていることの希望を教えてくれ。」
という言葉に少し考えさせられるところがありました。
「 卒業 」
自殺をした人に 残された人達の人生は、大きく変えられていく。
夫婦2人だけの問題じゃなく、それぞれの親、親を知らずに生まれた子。
自殺は決して、終わりではなく、多くの人の苦しみの始まりかもしれない。
「 追伸 」
幼くして母を癌でなくした子と 新しい母との関係。
本当にちょっとしたことの積み重ねで スレ違っていく感情。
年代の差、立場の差で、捉えかたの違いが 何十年も小さな悲しみを生んでいく。
勧善懲悪は、スパッっと気持ちが良いかもしれないけど、現実は、誰も悪くないことがほとんど。
親や親戚が登場しない漫画や小説と違い、現実には多くの人に取り巻かれて生きている。
皆それぞれにその時の最善を尽くしてるけど、ちょっとした行き違い、思い違い、伝わり違いが起こる。
それは、年齢差かもしれないし、経験差かも、個性の差、性別の差、立場の差かも。
そんな微妙なすれ違いを 淡々と読み進むと すっごいエンドじゃないけど胸に迫りくるものがある。
そういう作品たちでした。